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「うちの子、集中できない?」いたずらや姿勢の悪さに隠された『足元』の秘密

学校保健

「行儀が悪い」じゃなくて「環境が合っていない」かもしれない

二学期が少し落ち着いてきたころ、担任の先生から連絡帳にこんなことが書かれていました。

「授業中、集中できていない様子です。鉛筆を噛んだり、手をいじったりすることが多く、
 気になっています」

最初に読んだとき、胸がちくっとしました。「また学校から…」。

お子さんを育てていると、こういう連絡帳の一言が、思った以上にずっしりきますよね

でも私は、理学療法士として13年間、子どもの体を見続けてきた人間でもあります。
その夜、父親としての感情をいったん横に置いて、翌朝の娘の様子を「セラピストの目」で観察してみました。

椅子に座ってごはんを食べている娘。よく見ると、足が床にしっかり届いていません。かかとだけがかろうじて触れているような状態で、体がゆらゆらと揺れていました。背中は丸まり、肘を机についてなんとかバランスをとっている。

「あ。これは行儀の問題じゃない」

そう気づいたとき、連絡帳の「鉛筆を噛む」「手をいじる」という言葉が、まったく違って見えてきました。

叱る前に、まず足元を見てほしい。この記事は、そういう話です。


数字で見えてきた「負の連鎖」

私が最初にしたことは、椅子の高さを測ることでした。
実は私の家には小学校で使用されているものとほぼ同じ椅子があります。

感覚ではなく、数字で見る。それが理学療法士のやり方です。

小学校低学年の標準的な椅子の座面の高さは、約32cmです。写真を見てください
メジャーを当てたときの数字がはっきり映っています。

娘の身長は110cm。その子に合った椅子の高さの目安は「身長×0.25」で計算できます。
110×0.25=約27.5cm。
つまり娘に合った高さは27〜28cmなのに、実際の椅子は32cm。約5〜6cmの差があります。

たった5cm、と思うかもしれません。でもこれが、体にとってはとても大きな差なのです。

理学コメント
理学コメント

上記の写真の足元を見てみると踵が浮いているのがわかります。
足が床に届かない状態になると、体の支えになる面積がとても小さくなります。本来は「骨盤・太もも・足の裏」で体を安定させるはずなのに、足が浮いてしまうと「おしりの骨だけ」で支えることになってしまうのです。

支持基底面という専門用語があります。体が床や椅子と接触している面のことで、この面が広いほど体は安定します。足が浮くと、この面が一気に狭くなるのです。

すると、こんな「負の連鎖」が起きます。

足が届かない → 骨盤が後ろに傾く → 背中が丸まる(猫背) → 肩まわりが不安定になる → 手先が思うように動かない

字を書くこと、消しゴムを使うこと、定規を当てること。こういった細かい手の作業は、実は「体の安定」があって初めてうまくできるものです。土台がぐらぐらしているのに、先端だけ精密に動かすのは、大人でも難しいことなのです。

では、なぜ「鉛筆を噛む」のでしょうか。

これは、脳の働きで説明できます。体が不安定な状態に置かれると、脳は「自分がどこにいるか」「体がどう動いているか」という情報をとても欲しがります。この情報を伝えるのが、固有受容感覚という働きです。

固有受容感覚:筋肉や関節、足の裏から脳に送られる「体の位置・動き・力加減」の感覚のこと。足裏からの刺激もその一つです。

足が浮いて、足裏からの刺激がなくなってしまった脳は、代わりに「口」や「手」から刺激を集めようとします。鉛筆を噛む、手をいじる、髪を触るといった行動は、「悪い子だから」ではなく、「不安定な状態を何とかしようとしている体の反応」なのです。

発達障害やグレーゾーンのお子さんは、こうした感覚のアンバランスがもともと起きやすい傾向があります。そのうえ椅子まで合っていないとなると、体はますます「落ち着けない」状態になってしまいます。

叱ることで、この連鎖は止まりません。環境を変えることが、唯一の解決策です。


100均素材で作った「足元のお守り」

では、具体的に何をしたか。

材料費は合計で数百円。かかった時間は30分。でもその効果は、娘の「6時間」を変えてくれるものでした。


【その1】青い足台 プールスティックで作る「床への橋」

100円ショップで売っているプールスティック(お風呂や水遊びで使う、棒状のスポンジ)を使います。これを椅子の下に置いて、娘の足が乗る台を作りました。

写真を見ると、青いスポンジが2段積み重なり、その上に娘がしっかり足を乗せているのがわかると思います。足裏が台に触れ、膝がおよそ90度に曲がり、骨盤がきちんと起きている。この状態がとても大切です。

高さの調整は、積む数で変えられます。1段では低すぎる、3段では高すぎる、娘の場合は2段がちょうどよかったです。

実際の教室での写真には、青い足台がしっかり置かれているのが見えます。教室でも同じように使えています。

ここで大事にしたポイントがあります。それは「掃除の邪魔にならないこと」です。

小学校では、子どもたちが毎日机と椅子を動かして掃除をします。固定式の足台だと、掃除のたびに邪魔になって、先生から「やっぱり外してください」と言われてしまいます。

そこで、フックを使って椅子の横棒に引っかける「取り外し式」にしました。掃除の時間になったら娘が自分で外して椅子の上に乗せる。先生の手を一切借りないですむ仕組みです。この一工夫が、学校での継続使用を可能にしてくれました。


【その2】緑のゴムバンド  「動きたい」気持ちの逃がし場所

椅子の前脚2本の間に、緑のゴムバンドを張りました。

発達障害やグレーゾーンのお子さんの多くは、体をじっとさせておくことがとても難しいです。
これは「落ち着きがない」のではなく、脳が「動くことで刺激を集めようとしている」からです。

ゴムバンドを張ると、子どもは足でそれをビヨンビヨンと弾くことができます。この小さな動きが、
固有受容感覚を刺激し続けてくれます。「動きたい」という脳の要求を、授業の邪魔をせずにそっと満たしてあげる仕掛けです。

鉛筆を噛むことや、手をいじることで補おうとしていた刺激を、足元で補えるようになると、手元が自然と落ち着いてきます。

材料はすべて100円ショップで揃います。難しい工作もありません。今日からでも試せます。


先生との連携  「お願い」より「一緒に考えよう」

グッズができたら、次は学校への相談です。ここが、多くの保護者の方が一番不安に思うところではないでしょうか。

「変に思われないかな」「面倒くさい親だと思われたら…」

その気持ち、よくわかります。私も少し緊張しました。でも、進め方を少し工夫するだけで、先生はとても協力的に動いてくれます。


ステップ1:まず電話で話す時間をもらう

連絡帳への返事としてではなく、まず「少しお電話でお話しできますか」とお願いしました。

電話で大切にしたのは、「先生が気づいてくれたことへの感謝」から始めること。そして「私が正しい」という姿勢を出さないことです。

「先生が書いてくださった集中力の件、ありがとうございます。私も家で観察してみたのですが、椅子の高さが娘の体に合っていない可能性に気づきました。試してみたいことがあるのですが、先生のご意見を聞かせていただけますか?」

「一緒に考えたい」というスタンスで話すと、先生もぐっと話しやすくなります。


ステップ2:連絡帳で「根拠・目的・方法」を伝える

電話で「聞いてもらえそう」という感触を得てから、連絡帳で具体的な説明を書きました。難しい言葉は使わず、この3つだけを伝えます。

  • なぜこうなっているか(足が届かない→背中が丸まる→手が安定しない)
  • 何を目指すか(授業中に体を安定させて、手先が動きやすくする)
  • どうするか(プールスティックの足台とゴムバンドを使いたい)

先生の立場から見ると、「このご家族は感情ではなく根拠で動いている」と感じてもらえます。それが信頼につながります。


ステップ3:写真付きマニュアルを渡す

最後に、実際のグッズの写真と「掃除のときはこうする」という簡単なメモを一枚渡しました。先生が「どうしたらいいかわからない」という状況をなくすためです。

先生はクラス全員を見ながら仕事をしています。娘のグッズのことで余分な手間をかけさせてしまっては、長続きしません。「先生の負担ゼロ」を設計したうえでお願いすることが、継続の鍵です。

担任の先生は、快く受け入れてくれました。翌週から教室に足台とゴムバンドが設置されました

そして2週間後、連絡帳にこんな言葉が届きました。「最近、落ち着いて授業に取り組めていることが増えました。」


資格より「目の前のわが子」  PTパパとしての気づき

今年の春、私は「認定スクールトレーナー(ScT)」という公募に挑戦しました。学校と医療・福祉をつなぐ専門職として、正式に学校に関わるための制度です。

結果は、落選でした。

しばらくは落ち込みました。肩書きがあれば、もっと多くの子どもたちに関われると思っていたから。でも、娘の足台を作りながら、気づいたことがあります。

資格がなくても、目の前のわが子の環境は変えられる。

理学療法士でなくても、関係ありません。専門的な知識がなくても、「なぜこの子はこうなっているんだろう?」と観察する目と、「試してみよう」という行動力があれば、100均の材料で子どもの6時間を変えることができます。

2026年の診療報酬改定では、病院の外・学校や家庭や地域という「生活の場」でのリハビリテーションがより重視されるようになりました。専門職が病院の中だけで働く時代は、少しずつ変わってきています。

でも、それよりも先に、親であるあなたが気づいて動ける。それが一番早くて、一番子どもに近い支援です。


リハ職として最後に、一つだけお願いがあります。

今夜、お子さんが椅子に座っているとき、足元をそっと見てみてください。

足の裏が、床にちゃんとついていますか?

もしかしたら、「落ち着きがない」と思っていたあの姿が、「もっと安心したい」というサインに見えてくるかもしれません。

100円のプールスティックが、一人の子どもの毎日を変えることができます。そのことを、どうか覚えておいてもらえたら嬉しいです。

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